人工関節で障害年金をお考えの方へ|認定基準・金額・申請のポイントを社労士が解説
変形性股関節症や変形性膝関節症、関節リウマチ、大腿骨頭壊死などの病気やケガにより、人工関節(人工股関節・人工膝関節・人工骨頭)のそう入置換手術を受けた方は、障害年金を受給できる可能性があります。
結論からお伝えすると、人工関節をそう入置換した場合は、部位や個数にかかわらず原則として障害等級3級に認定されます。ただし、3級の年金があるのは障害厚生年金のみのため、初診日にどの年金制度に加入していたかが、受給できるかどうかの大きな分かれ目になります。
この記事では、人工関節と障害年金の認定基準、受給できる金額、申請方法と注意点を、障害年金を専門とする社会保険労務士がわかりやすく解説します。
人工関節置換術とは|対象となる主な傷病
人工関節置換術とは、変形や損傷により機能が損なわれた関節を取り除き、人工の関節に置き換える手術です。痛みを和らげ、関節の機能を回復させることを目的としています。
人工関節に至る主な傷病には、次のようなものがあります。
- 変形性股関節症・変形性膝関節症
- 関節リウマチ
- 大腿骨頭壊死(ステロイド治療の副作用によるものを含む)
- 骨折などの事故・ケガ
- 先天性股関節脱臼(臼蓋形成不全)
原因となった病名を問わず、人工関節・人工骨頭をそう入置換していれば障害年金の対象となり得ます。なお、障害年金は原則として65歳になる前に初診日があることが必要です。
人工関節の障害年金の認定基準
日本年金機構の障害認定基準では、人工関節・人工骨頭をそう入置換した場合の取り扱いが次のように定められています。
3級に認定される場合
下肢(股関節・膝関節・足関節)または上肢(肩関節・肘関節・手関節)の3大関節のうち1関節以上に人工関節・人工骨頭をそう入置換した場合は、片側・両側を問わず、原則として3級に認定されます。
さらに上位等級(2級以上)に認定される場合
人工関節を入れてもなお障害の状態が重い場合には、2級以上に認定される可能性があります。下肢の場合の目安は次のとおりです。
- 一下肢の用を全く廃したもの:一下肢の3大関節のうち2関節以上が、通常の他動可動域の2分の1以下に制限され、かつ筋力が半減している状態
- 両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの:両下肢の3大関節のうちそれぞれ1関節以上が、通常の他動可動域の2分の1以下に制限され、かつ筋力が半減している状態
つまり「両側に入れたから2級」ということではなく、あくまで術後にどの程度の機能障害が残っているか(関節の可動域の制限と筋力の状態)で判断されます。
最重要ポイント:初診日にどの年金制度に加入していたか
障害年金には「障害基礎年金(1級・2級)」と「障害厚生年金(1級〜3級)」の2種類があり、初診日に加入していた年金制度によってどちらの対象になるかが決まります。
| 初診日の加入制度 | 対象となる年金 | 人工関節(原則3級)の場合 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険 (会社員・公務員など) |
障害厚生年金(1〜3級) | 受給できる可能性が高い |
| 国民年金 (自営業・専業主婦・20歳前など) |
障害基礎年金(1・2級のみ) | 原則3級のため受給は難しい |
※初診日とは、その傷病について初めて医師の診療を受けた日です。人工関節の手術をした病院ではなく、最初に痛み等で受診した医療機関の受診日が初診日となる点にご注意ください。
初診日に国民年金だった方でも受給できる可能性があるケース
「国民年金だから無理」と諦める前に、次の2つの可能性をご確認ください。
1.術後にさらに状態が悪化した場合
人工関節をそう入置換した後、「一下肢の用を全く廃したもの」「両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」などの状態に悪化している場合は、障害基礎年金2級として認定される可能性があります。
2.社会的治癒が認められる場合
幼少期などに発病して受診した後、長期間(目安5年以上)受診せず日常生活・社会生活に支障なく過ごし、成人後に再び痛みが生じて受診した――このようなケースでは、再受診した日を初診日として取り扱う「社会的治癒」という考え方があります。再受診時に厚生年金保険に加入していれば、障害厚生年金3級として認定される可能性があります。必ず認められるわけではありませんが、検討する価値のある重要な論点です。
障害認定日の特例:手術日から請求できます
障害年金は通常、初診日から1年6か月を経過した日(障害認定日)以降でなければ請求できません。
しかし人工関節には障害認定日の特例があり、初診日から1年6か月以内に人工関節をそう入置換した場合は、その手術日が障害認定日となります。つまり、1年6か月を待たずに、手術を受けたらすぐに請求手続きを進めることができます。
請求方法は手術日のタイミングで変わります
| 手術日のタイミング | 請求方法 | さかのぼり |
|---|---|---|
| 初診日から1年6か月以内 | 障害認定日請求 (手術日=認定日) |
最大5年分の遡及が可能 |
| 初診日から1年6か月経過後 | 事後重症請求 | 請求月の翌月分から支給 (遡及なし) |
手術日が初診日から1年6か月以内であれば、請求が遅れていても最大5年分をさかのぼって受給できる可能性があります。一方、事後重症請求の場合は請求した月の翌月分からの支給となるため、請求が1か月遅れるごとに1か月分の年金を受け取れなくなります。いずれの場合も、お早めの手続きをおすすめします。
受給するための3つの要件
1.初診日要件
障害の原因となった傷病の初診日が特定でき、その日に公的年金制度に加入していること(受診状況等証明書などで証明します)。
2.障害状態要件
障害認定日(または請求時点)において、障害等級に該当する状態であること。人工関節の場合はそう入置換の事実により原則3級に該当します。
3.保険料納付要件
初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間(免除期間を含む)が3分の2以上あること。または、直近1年間に未納がないこと(特例)。
受給できる金額(令和8年度)
人工関節で障害厚生年金3級に認定された場合、報酬比例の年金額が支給されます。報酬比例の年金額は、これまでの給与水準と厚生年金の加入期間によって一人ひとり異なります。
計算結果が低額になる場合に備えて最低保障額が設けられており、令和8年度は年額635,500円(月額約52,900円)です(昭和31年4月1日以前生まれの方は633,700円)。
つまり、人工関節で3級に認定されると、少なくとも年間約63万円の年金を受け取れることになります。給与水準や加入期間によっては年額100万円を超えるケースもあります。
※年金額は毎年度改定されます。本記事の金額は令和8年度(2026年4月分〜)のものです。
申請に必要な書類と診断書のポイント
- 診断書(肢体の障害用・様式第120号の3):人工関節をそう入置換した事実、手術日、関節可動域や筋力、日常生活動作の状況が正確に記載されていることが重要です。
- 受診状況等証明書:初診の医療機関と診断書作成の医療機関が異なる場合に、初診日を証明するために必要です。
- 病歴・就労状況等申立書:発症から現在までの経過、日常生活や仕事で困っていることを時系列で記載します。
診断書の実務ポイント
- 診断書の「⑬人工骨頭・人工関節の装着の状態」欄に、部位と手術日を必ず記入してもらいましょう。記載漏れがあると認定に影響します。
- 障害認定日請求(遡及請求)の場合、通常は認定日時点と現在の診断書2枚が必要ですが、人工関節の場合は手術日の記載により認定日の状態が確認できるため、現在の診断書1枚で請求できる取り扱いがあります。
- 医師は治療の専門家であっても、障害年金の認定基準に精通しているとは限りません。診断書を受け取ったら、提出前に記載内容を必ず確認しましょう。
申請の流れ
1.初診日の確認・証明書類の取得:初診の医療機関に受診状況等証明書を依頼します。
2.診断書の作成依頼:現在の主治医に診断書(肢体の障害用)の作成を依頼します。
3.病歴・就労状況等申立書の作成:診断書と整合性のとれた内容で作成します。
4.年金事務所等への提出:書類一式を提出します。
5.審査・決定:審査にはおおむね3か月程度かかります。認定されると、決定通知後に年金の支給が始まります。
受給事例
人工関節で障害厚生年金3級受給、一元化後の遡及分も受給した事例
両変形性膝関節症で人工関節を置換した場合、2級を受給する可能性はあるか?
両足に人工股関節を挿入し、障害年金2級を受給できた事例【申請のポイントも解説】
よくあるご質問(Q&A)
Q. 働いていても障害年金はもらえますか?
A. 人工関節による3級認定は「そう入置換した事実」に基づくため、就労中の方でも受給できる可能性があります。実際にフルタイムで働きながら受給している方は多くいらっしゃいます。
Q. 手術から何年も経っていますが、今からでも申請できますか?
A. 可能です。手術日が初診日から1年6か月以内であれば、遡及請求により最大5年分をさかのぼって受給できる場合があります。時効により受け取れる期間が減っていくため、お早めのご相談をおすすめします。
Q. 一度認定されたら、更新の手続きは必要ですか?
A. 人工関節による認定は、障害の状態が変わらないものとして永久認定(更新不要)とされるケースが多くあります(個別の事情により有期認定となる場合もあります)。
Q. 先天性の股関節脱臼が原因の場合はどうなりますか?
A. 20歳前に初診日がある場合は障害基礎年金(1・2級のみ)の対象となるため、原則3級の人工関節では受給が難しくなります。ただし、長期間受診せず社会生活を送れていた期間がある場合は「社会的治癒」の考え方により、厚生年金保険の加入中の再受診日を初診日として申請できる可能性があります。
Q. 65歳を過ぎていても申請できますか?
A. 障害年金は原則として65歳になる前に初診日があることが必要です。ただし、初診日が65歳前にあれば、65歳を過ぎてからでも障害認定日請求(遡及請求)ができる場合があります。年齢が理由で諦める前に、一度ご相談ください。
人工関節の障害年金申請を社会保険労務士に相談するメリット
人工関節の申請は「原則3級」というルールがある分、一見シンプルに見えますが、実際には次のような落とし穴があります。
- 初診日が数十年前で、カルテが廃棄されており証明が難しい
- 初診日の加入制度の確認を誤り、本来受給できるのに諦めてしまう
- 診断書に手術日やそう入置換の事実が正しく記載されていない
- 遡及請求できるのに、事後重症請求として請求時点からの支給しか受けていない
申請をお考えの方は、ぜひ一度江口労働法務事務所へご相談ください。












