人工血管で障害年金を受給するには? 条件と申請の流れを詳し く解説
人工血管と障害年金の基礎知識
大動脈解離や大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症などの治療のために、人工血管を体内に留置する手術を受け、その後の日常生活や仕事に不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。
そのような方々の経済的な基盤を支え、安心して治療や生活を送るための一助となるのが障害年金です。ここでは、まず人工血管の基本的な情報と、障害年金制度の概要について解説します。
人工血管とは?
人工血管とは、病気やケガによって傷ついたり、詰まったり、瘤(こぶ)ができてしまった血管の代わりとして体内に埋め込む、人工の管のことです。
主に、以下のような病気の治療で用いられます。
- 大動脈瘤: 心臓から全身に血液を送る最も太い血管「大動脈」が、こぶのように膨らんでしまう病気です。破裂すると生命に関わるため、こぶができた部分を人工血管に置き換える手術が行われます。
- 胸部大動脈解離: 大動脈の壁が裂けてしまう病気です。これもまた命に関わる危険な状態で、緊急手術で人工血管に置換することがあります。
- 腹部大動脈解離→対象にならない
- 閉塞性動脈硬化症: 主に足の血管が動脈硬化で狭くなったり詰まったりして、血流が悪くなる病気です。歩行時に痛みが出るなどの症状が現れ、重症の場合には血流を確保するために人工血管を用いたバイパス手術が行われます。
手術によって一命を取り留めた後も、血圧の管理が欠かせなかったり、重いものを持てなくなったり、定期的な検査が必要になったりと、生活や仕事に様々な制約が生じることがあります。
障害年金の概要と目的
「障害年金」とは、公的な年金の1つで、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。
障害者のための特別な手当や、事故や労災などによるケガでないと申請できない、と勘違いされている人もいますが、実は老齢年金と同じ公的年金です。
もちろん、人工血管を留置した方も、障害年金の対象となります。
障害の程度によって安定した収入が継続的に得られることは、ご本人の経済的な安心だけでなく、精神的な安定にも繋がり、治療への専念や、無理のない働き方への移行を支える重要な役割を果たします。
また、障害年金の受給要件を満たしているのに、障害年金を申請しないというのは、65歳になっても老齢年金を受け取っていないようなものなので、特別な事情のない限りは障害年金の受給をお勧めします。
人工血管・ステントグラフトの認定基準について
障害年金において、人工血管の留置は「血液・造血器・その他の障害」に分類されます。
審査で重視されるのは、単に手術を受けたという事実だけでなく、手術の原因となった病名、手術後の経過、現在の自覚症状、他覚所見(検査数値など)、そして日常生活や仕事にどの程度の支障が生じているかという点です。
特に、胸部大動脈や腹部大動脈に人工血管やを挿入置換した場合は、それ自体が一定の障害状態にあると見なされ、認定基準に明確に示されています。ご自身の状態がどの程度の評価を受けるのかを正しく理解し、申請準備を進めることが重要です。
障害年金の受給要件
障害年金を受け取るためにはいくつかの条件を満たさなければなりません。
申請の前に、条件を満たしているか必ず確認しましょう。
①初診日要件
国民年金、厚生年金、共済年金へ加入していた期間中に、その障害の原因となった病気やケガ(大動脈解離や大動脈瘤など)で初めて医師の診察を受けた日であることが必要です。この日を「初診日」といいます。
②保険料納付要件
初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、3分の2以上の期間について、保険料を納付または免除されている必要があります。
ただし、令和8年3月31日までに初診日がある場合は、初診日の前々月までの1年間に保険料の未納がなければよい、という特例があります。
(※20歳前の年金制度に加入していない期間に「初診日」がある場合は、納付要件は不要です)
③障害認定日の要件
障害年金を受けられるかどうかは、障害認定日に一定以上の障害状態にあるかどうかで判断されます。
通常の傷病では「初診日から1年6か月が経過した日」が障害認定日となりますが、人工血管を挿入置換した場合は、その挿入置換した日が障害認定日となります。
この障害認定日に一定の障害状態にあると認められると、その翌月から年金が支給されます。
④受給できるのは原則20歳から64歳まで
障害年金は原則20歳から64歳までの人が請求できます。
人工血管の認定基準
人工血管やを留置した場合の障害等級は、「その他の疾患による障害」の認定基準に基づいて判断されます。検査数値などが重視される他の内部疾患とは異なり、人工血管の場合は手術の内容が等級に直結する特徴があります。
障害等級3級に認定されるケース
国の定める認定基準には、以下のように明記されています。
「胸部大動脈又は腹部大動脈に人工血管を挿入置換したもの」は、3級と認定する。
つまり、心臓に近い主要な大動脈に人工血管を入れた場合は、それだけで原則として障害厚生年金の3級に該当すると判断されます。
その他の部位や症状による判断
大動脈以外の、例えば足の血管などに人工血管を入れた場合は、手術の事実だけでは等級が認定されるわけではありません。
その場合は、手術後の経過や自覚症状、検査成績、そして日常生活や労働にどれくらいの制限があるかを総合的に評価して、2級や3級に該当するかどうかが判断されます。
具体的な申請手続きの流れ
障害年金の申請は、一般的に以下の流れで進めます。
- 年金事務所への相談: まずはお近くの年金事務所や年金相談センターに相談し、必要な書類や手続きの概要を確認します。
- 初診日の証明: 初診の医療機関で「受診状況等証明書」を取得します。
- 診断書の作成依頼: 現在通院している、または手術を受けた医療機関に、障害年金用の診断書(様式第120号の4「血液・造血器・その他の障害用」)の作成を依頼します。
- 申立書の作成: 「病歴・就労状況等申立書」を作成します。これは、発症から手術、そして現在に至るまでの経過や、日常生活・就労における支障を、ご自身の言葉で伝えるための重要な書類です。
- 書類の提出: 揃えた書類を年金事務所または市区町村役場の窓口に提出します。
書類の準備には時間がかかるため、計画的に進めることが大切です。
障害年金の金額について
障害年金を受給できるとなった場合、実際にいくらくらい受け取れるのかは、最も気になるところでしょう。ここでは、支給額の目安や、働きながら受給する際の注意点について解説します。
障害年金の申請時のポイント
障害年金の申請は、書類審査です。提出する書類の完成度が、結果を大きく左右します。ここでは、申請を成功させるために押さえておきたいポイントを解説します。
有効な診断書の書き方とは
診断書は、障害等級を決定づける最も重要な書類です。医師に実態に即した内容を書いてもらうために、以下の点を心がけましょう。
- 手術日、手術名、留置した部位を正確に記載してもらう: 特に「胸部大動脈」「腹部大動脈」といった部位の記載は、3級認定の根拠となるため非常に重要です。
- 日常生活や就労上の支障を具体的に伝える: 術後の血圧管理、疲れやすさ、めまい、動悸、重いものを持てないといった自覚症状や、それによって仕事や家事でどのようなことができなくなったのかをメモにまとめて医師に渡しましょう。
- 検査成績も記載してもらう: 術後の心電図、レントゲン、CT、心エコーなどの検査結果も、病状を客観的に示す上で重要な情報となります。
医師は病気の専門家ですが、障害年金制度の専門家ではありません。ご自身の困難さを客観的な事実として、漏れなく伝える努力が不可欠です。
必要な証明書と書類一覧
障害年金の申請には、主に以下の書類が必要です。
医師に作成してもらう書類
- 受診状況等証明書(初診の病院と診断書作成の病院が違う場合に必要)
- 診断書(血液・造血器・その他の障害用)
自身で用意する書類
- 年金請求書
- 病歴・就労状況等申立書
- 生年月日を確認できる書類(戸籍謄本、住民票など)
- 請求者の振込先金融機関の通帳のコピーなど
- 年金手帳、基礎年金番号通知書
これらの書類に不備があると、返戻されたり審査が遅れたりする原因になります。
申立書とその提出のタイミング
「病歴・就労状況等申立書」は、診断書では伝えきれないご自身の困難さをアピールできる唯一の書類です。
- 書き方のポイント:
- 最初の自覚症状から初診、病名の確定、手術、そして現在までの経過を時系列で分かりやすく記述します。
- 術後、日常生活や仕事においてどのような変化があったか、どのような配慮や工夫が必要になったかを具体的に書きます。「重いものが持てない」だけでなく、「10kg以上の荷物は持たないように医師から指導されている」「長時間の立ち仕事は動悸がするため、1時間ごとに休憩を取る必要がある」など、具体的に記述しましょう。
- 診断書の内容と矛盾がないように注意してください。
この申立書の内容が、審査官があなたの状況を深く理解するための大きな手助けとなります。
受給申請後の流れと注意点
無事に書類を提出した後も、結果が分かるまでは落ち着かない日々が続くかもしれません。ここでは、申請後の審査期間や、通知された結果への対応方法について解説します。
申請後の審査期間とは
障害年金の申請書類を提出してから、結果が通知されるまでの審査期間は、障害厚生年金の場合でおおむね3〜4か月程です。しかし、申請の混雑状況や個別の事情により、さらに時間がかかることもあります。
審査結果は、「年金証書(支給決定の場合)」または「不支給決定通知書」「却下通知書」といった形で郵送されてきます。
無料相談受付中
障害年金の申請は複雑で、特に人工血管の場合は「初診日の証明」や「初診日の年金加入状況」が結果を大きく左右します。社会保険労務士(社労士)は、障害年金の専門家として申請をサポートします。
以下のような状況であれば、当事務所の無料相談をご検討ください。
- 手続きが複雑で、何から手をつけていいか分からない
- 初診日の証明が難しい
- 自分の場合、受給できる可能性があるのか知りたい
- 病歴・就労状況等申立書の書き方が分からない
- 仕事が忙しく、申請準備の時間が取れない
オンラインや実際にお会いして障害年金に関するご相談をお受けいたします。
また、ご自身での申請が難しい場合には、障害年金の申請代行サポートもございますので、お気軽にご相談ください。